温湿布?冷湿布?それとも?


latest update 06.04.13

 「温湿布が良いですか?冷湿布が良いですか?」とよく尋ねられます、何度と無く。
そのたびに、「いまどきの湿布には温も冷も無く、鎮痛剤です」とか、「温湿布というのは言葉のあやで、実は“とうがらし”湿布です、真に温まるわけではありません」と話しています。

そもそも湿布とは何でしょう?

 欧米ではほとんど使われていません。漢方で開発され、我が国で発展した伝統的治療法と言えます。元来は薬草をすりつぶした汁を塗布するものでしたが、その後薬剤を布の上に塗布したものが製品化されるようになりました。

湿布の効果とは何でしょう?

1. 第1世代の湿布@:古典的「冷湿布」効果
 伝統的薬草塗布の流れを汲むもので、打撲などで腫れた患部を冷やして痛みを軽減する目的で使われます。いわゆる「冷湿布」のルーツでしょう。

2. 第1世代の湿布A:古典的「温湿布」効果
 皮膚に強い刺激を与えて皮膚体感温度を上げるもの。昔は長旅で疲れた足の裏に辛子を塗る習慣がありました。これこそ「温湿布」のルーツでしょう。
 現在の「温湿布」も、とうがらしエキスが含まれていますが、研究者に依れば皮膚温はさほど上昇しないそうで、まして深部まで温める効果はありません。むしろ刺激が強いので、かぶれやすく、皮膚の弱い人には勧められません。「温湿布」の呼称は誤解を生むので、「とうがらし湿布」と呼ぶべきでしょう。

3. 第2世代の湿布:鎮痛剤としての効果
 近来の湿布剤には消炎鎮痛剤が含まれています。薬剤は微量ながら皮膚を通って皮下組織に浸透し、血管に取り込まれて全身に流れます。同様な吸収効果を利用したものに、心臓疾患用貼付剤やタバコ離脱用ニコチンパップなどがあります。
 鎮痛剤湿布の場合も、鎮痛剤内服ほどではありませんが、痛みをわずかに和らげます。それだけに、重症の喘息やアレルギーをお持ちの患者さんには使えない欠点もあります。これら鎮痛剤入り第2世代湿布は、冷やすことが目的でないので、「冷湿布」と呼ぶべきではありません。「いまどきの湿布」または「鎮痛剤入り湿布」と呼ぶべきでしょう。

4. 第3世代の湿布:鎮痛剤テープ剤
 最近はさらに消炎鎮痛剤を塗布する布に改良が成されて、薄いテープ剤が開発され、ごわつきが少なく伸縮性に優れ、貼付しやすいものになっています。その反面、皮膚呼吸を阻害し、薬剤感作性によるかぶれの頻度も高い傾向があります。ある種の鎮痛剤テープ剤は日光過敏症の患者さんにとって、夏期には使いづらいでしょう。


5. 皮膚刺激により内部の痛みをごまかす効果
 これにはまず痛みについての解説が必要でしょう。痛みとは、皮膚、筋肉、骨、内臓などに分布する神経終末に強い刺激があると、これを脳で痛みとして認知するものです。異常を察知して脳に警告を与える大切なメカニズムです。神経は、脊髄から分離して特定の部位に分布しますが、これに枝があって、1部は皮膚表面に達しています。背骨の圧迫骨折なのにお腹の皮が痛いとか、腰の関節の痛みがお尻にひびくのもその為です。これを逆手にとって、皮膚表面に刺激を与えることで内部の痛みを「隠す」または「ごまかす」ことが出来ます。実は湿布剤の最大の効果はこの、「ごまかし」効果かもしれません。鍼・灸も似たようなメカニズムを利用したものでしょう。

6. 直接深部に薬剤が到達する効果(宣伝)?
 これは誤りです。「深く浸透して内部の炎症や痛みを直に取る」と言った某製薬会社の宣伝は誇大ないし虚偽と言って良いでしょう。浸透するのはせいぜい1cm程度で、皮下に達した時点で吸収されるからです。テレビ宣伝も「模式図」と断っています。

どの様に湿布を使ったら良いのでしょうか?

 打撲・捻挫・スポーツ障害の急性期には冷やす必要がありますが数日間に限られ、それ以降は、単に鎮痛剤の効果を期待します。痛みの原因がどこであれ、湿布は痛いところに貼ればよいのです。
 慢性的腰痛や肩・膝痛は概して温めたほうが良いので、干渉波や超音波といった物理療法で温める治療を致しますが、湿布に関しては温湿布が良いとは必ずしも言えません。鎮痛効果を期待するなら鎮痛剤湿布で良いわけで、皮膚の弱い人に「温湿布」は使えません。寒い冬に本当に温めたいなら、むしろ下着に貼りつける簡易懐炉(カイロ)をお使いになるべきでしょう。これこそわが国の発明で、海外にはありません。お薬屋さんか、スーパー、コンビニなどでお求めください。

湿布剤使用に関するご注意

1. 傷の上には直接貼らないでください。
2. 一日中貼らないでください。
 特にかぶれやすい人は、半日以内に除去して下さい。赤くかゆみがある場合は中止して下さい。
3. 重症の喘息や消炎鎮痛剤アレルギーの方は使えない場合がありますので、その場合は医師にご相談下さい。
4. 湿布剤によっては光線過敏症を起こす場合があります。
 湿布を貼った直後の肌に直接日光が当たるとかぶれてしまうもので、特に夏はご注意ください。
5. 「温湿布」は通常の湿布よりかぶれやすいので、皮膚の弱い方はご注意ください。
6. 湿布はあくまでも痛みを和らげるために使うものです。
 強い痛みがある場合には他の治療法を選択する必要があります。医師にご相談ください。


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