肘シリーズ



肘内障 野球肘
テニス肘
靱帯損傷〜脱臼
小児の肘周辺骨折
高齢者の肘周辺骨折




latest update: 2006.10.13

1.肘 内 障


 肘内障とは、小児(0〜3歳くらい)の肘の半抜け状態で、痛がるので深夜でも医者に連れて行きたい疾患の一つです。腕全体をだらりと下げている事が多く、慌てたお母さんは「肩が抜けた」とかとか仰ることがあります。

肘内障の原因

 お母さんが子供の手を引っ張ったときとか、子供同士で遊んでいてお兄ちゃんが小さい弟の手を引っ張ったなどの時に起きる。特に子供の意識がおもちゃなど別なところにあるのにお母さんが「早くおいで」とか急に引っ張ったりすると起きやすい。寝返りを打って自分の腕が下敷きになったとき発生したという事例もある。

何故起きるの?どうなっているの?

 肘関節は、肘から上の上腕骨、肘から下(前腕)の尺骨と橈骨の3つの骨が組み合わさっています。この内、橈骨の頭部は輪状靱帯で覆われており、この中で回転することで、前腕の回旋(内返し、外返し)が可能になります(右図1)。幼児期にはこの橈骨頭が未発達なために輪状靱帯から半抜けしやすい様です。手を引っ張って肘が伸びきるとき、例えば前腕の回旋が同時に起きます。すると輪状靱帯の中で橈骨頭が回転しながらネジが緩む要領で外れかかります(図2)。勿論完全に外れてしまうことは有りませんが、橈骨頭が手の方へ引かれ、靱帯が上に残ります。残った靱帯が関節の邪魔をするので、肘を曲げようとしても曲がらず、無理に曲げると痛いので、大泣きすることになります(図3)。子供は肘を曲げられないので、腕全体をだらりと下げて万歳などできません。で、お母さんが子供を病院に連れてきたとき、「肩が外れた!」と仰ることがあるわけです。
 一度起きるとまた同じ事が起きることがあります。3歳までが多いのですが、5歳までは要注意です。
 5歳以上になると骨も発達してきますから、簡単に外れることはありません。10歳過ぎて起きた症例もありますが、非常に稀です。

治  療

 簡単に出来ます。肘の感触を指先で確かめながら戻し(整復し)ます(図4)。まあ、無理なことをしてはいけませんから、慣れた我々整形外科医に任せて下さい。真夜中でも構いませんから連れていらっしゃい。整復直後は少し余韻がありますが、大抵1分後には万歳出来ます。
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2.野 球 肘


 野球肘とは、スポーツ少年の肘に起きる故障の一つで、内側型と外側型があります。野球のピッチャーなどに多いのですが、遠投など記録会の後に発症したり、やり投げその他の投擲競技でも発生します。

内側型野球肘(右図1)

 内側型野球肘の本態は靱帯損傷です。ただし少年の靱帯は丈夫なので、靱帯が切れるより、付着した骨の一部が剥げる形を取ります。同様なことは足関節捻挫でもよく見ることです。
 投球動作で、加速期には肘が外側に傾き、内側の靱帯がピンと張った状態になります。この瞬間、負担が強すぎたり、くり返しの負担に耐えられなかったりして、靱帯が付着する骨の一部ごと剥げる事があります。ほとんどの場合、上腕骨内上顆基部で起きるのですが、小さいとは言え一種の骨折なのにレントゲンに写りにくいことがあります。実はレントゲンの取り方にコツがあるのです。
 治療は第一に安静が必要です。腫れが強い、痛みが強い時は2〜3週間ギプス固定します。無理に練習を続けさせると骨片がくっつかず、遊離骨片となって後々スポーツをする度に痛くなることがあります。
 少年時の故障一般に言えることですが、故障したときは素早く休ませて早く直す方が得策です。子供の怪我に根性論は禁物です。かえって故障を長引かせ、目標の甲子園以前に本格的競技から引退せざるを得ない子供達が大勢いる現実を知るべきです。草野球で良かったらいつでも出来ますが、甲子園やプロの世界は生半可ではありません。プロに耐えうる体であるためには、注意深い取り組みが必要です。

外側型野球肘(右上図2)

 外側型野球肘の本態は離断性骨軟骨炎です。投球動作では上記のように肘関節が外側に傾くため、内側の靱帯は引っ張られ、外側の骨同士がぶつかります。つまり、度重なる関節の外側部でのストレスが、軟骨下の骨壊死を起こし、ついには軟骨が浮き上がって骨軟骨の塊が関節内に脱落します。こうなっては無理に野球を続けることなど到底出来ません。脱落した骨軟骨片は手術で摘出するか骨ネジで再固定しなければ成りません。上腕骨小頭の関節面には大きな穴があいており、穴の底は血行不良に落ちっていますので、工事現場のボーリングの要領でドリルで穴を開けて血行再開を促します。スポーツへの復帰は1年後になるでしょう。復帰しても一流への道は遠い可能性があります。
 繰り返しますが、ここまで重症化する前に整形外科を受診させて下さい。休ませたくない、試合に出させたい、それらの思いが結局アダになって選手生命を失わせることになるのです。始まりは痛みです、早期発見・早期休養すれば、こうならなかったかも知れないのです。重症化すればするほど復帰への道は厳しくなります。
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3.テニス肘


 テニス肘とは、上腕骨外上顆炎(上腕骨外側上顆炎)のことで、物を持ち上げるなどするとき肘関節の外側が痛くて困る、比較的ありふれた疾患です。手のひらを下に向けて重い本を持ち上げる、受話器を上げる、ほうきで掃く、鍋をつかむなど、日常生活の至る所で痛みを感じて、重症感はないのに長期間悩ましい疾患です。

テニス肘の原因

 原因が明らかでないこともありますが、たまたま重い物を持った後に発生したり、くり返し物を運んだ後だったりしますが、テニスで打ち損ねた後にも発生することが通称”テニス肘”と呼ばれる所以です。

一体どうなっているの?

 テニス肘の本態については、まだ議論の余地はありますが、腱付着部炎説と、滑膜ひだ説があります。
1)腱付着部炎説(右図1
 これまで筆者が重症で手術させていただいた症例で共通しているのは、短橈側手根伸筋起始部炎〜部分断裂です。手首を反らす筋で一番強い橈側手根伸筋は長短2本から成り立っており、長橈側手根伸筋の起始部(近位付着部)は上腕骨遠位部の広い範囲に付着しています。一方、短橈側手根伸筋の起始部は細い腱であり、長橈側手根伸筋と指伸筋にはさまれています。両側の筋と共にくり返し引っ張られた結果、弾力性に乏しい腱に傷が出来、元より血行の充分でない部分故に治りにくいものと考えます。(ちなみに、オランウータンなどではこの筋起始部はより広く、木にぶら下がってもテニス肘を起こしそうにありません、ハハ、やはり樹上生活のプロは違います)

2)関節内滑膜ひだ嵌頓説(右図2)
 手術症例で、腕橈関節(上腕骨と頭骨の間)に”滑膜ひだ”の介在が発見される場合があります。物を持ち上げる時など、この滑膜ひだが関節の間に挟まって痛みが走ると言う説ですが、この”滑膜ひだ”の存在そのものがはたして異常所見かどうか結論が出ていません。解剖学的には自験例でもかなりの頻度で検出されており、軽度の滑膜ひだは正常組織の可能性があります(頻度未報告)。膝の半月板ほど強い組織ではありませんが、小関節には度々見出されます。筆者は症状発生様式から見てもこの説には否定的です。
 ただ、肘関節の屈伸時に引っかかり感を伴う「弾発肘」の場合は、輪状靱帯に連なるやや強いひだ状構造物があり、この場合もテニス肘同様の痛みを伴います。上記の滑膜ひだ嵌頓説はむしろ「弾発肘」に分類すべきと考えます。注意深い触診により鑑別出来るでしょう。

検   査

1)圧痛:上腕骨外上顆炎の名の如く、上腕骨外上顆(直下)に圧痛があります。
2)チェアーテスト:つまらない名前が付いていますが、要するに重いものを片手で持ち上げると肘の外側に痛みが走るというものです。
3)Thomsen test:同じ理屈ですが、抵抗下に手首を反らせると痛みがひびきます。橈側手根伸筋の緊張で痛みが誘発されます。
4)中指テスト:Thomsen test 同様に中指を抵抗下に反らせると痛みます。これは指伸筋筋腹の中で中指成分のみが肘に達し、短橈側手根伸筋筋腹に隣接しているために橈側手根伸筋の痛みを誘発することを利用したものです。他の指の伸展ではほとんど誘発できません。
5)回外テスト:抵抗下に前腕の回外をして痛みが誘発されることがあります。これは指伸筋の深層にある回外筋の緊張により痛みが誘発されるものですが、軽傷者では発現せず重傷者のみに現れます。

治   療

 レントゲン検査で他の疾患を除外した上で、大多数は日常生活指導だけで十分ですが、必要に応じて治療します。
1)固定バンド(テニス肘用サポータ)
 肘関節のすぐ下(前腕筋腹)をバンドでしばります。筋の過剰な緊張を抑制するので痛みが減少します。医院に常備しております。使用上の注意を守って下さい。
2)物療
 マイクロなど電気温熱療法が痛みを和らげます。
3)注射
 痛い部分に局所麻酔剤などを浸潤させると一時痛みが軽くなります。頻回に注射は出来ません。
4)手術
 重症で、仕事が出来ないときなどにのみ実行します。腱付着部の損傷部分を新鮮化します。
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